NEC 系のプロジェクトで地方銀行/農協のシステムを“手作り”で立ち上げた時代から、メインフレームと COBOL を軸に金融・製造・流通まで幅広く経験してきた椿さん。40代でフリー、55歳で法人化し、いまはシニアの仲間と共に現場を支え続けています。レガシー刷新が叫ばれるなかで、長年現場で培ってきた「理屈で動くシステム」への理解力と、シニアITエンジニアがもつ経験知の価値は今も揺るぎません。保守・運用・モダナイゼーションの最前線で見えてきた“シニアの強み”について伺いました。
ご経歴と、メインフレーム/COBOL に携わるようになった経緯を教えてください
卒業後、NECのパートナー会社に入社し、NEC本体に常駐する形でキャリアをスタートしました。昭和55年ごろ、地方銀行や農協向けのバンキングシステムをゼロから開発。当時はまだパッケージが存在せず、すべて“手作り”で構築 していました。
業務基盤の設計から業務系アプリケーションまで担当を広げ、主に COBOL、時には HPL という特殊言語も使いました。最初は完全な素人で、現場のソースや手書きのフローチャートを読み解きながら技術を身につけました。この“叩き上げ”の学びが、システムを構造的に理解する力の原点になっています。
エンジニアとして大きな転機になった出来事は?
ある金融案件で、高い負荷がかかりシステムダウンが発生しました。原因がわからず混乱する中、私はOSの不具合を疑い、一晩でシミュレーターを作り、現象を再現。数百ページのクラッシュダンプを紙で出力してOS開発部に持ち込み、バグの構造を理屈で説明 しました。
結果、OSのDB管理機構の不具合が判明。この経験から「システムは理屈どおりにしか動かない 」という信念を得ました。以降、どんな現場でも“現象の再現”と“説明の筋道”を大切にしてきました。エンジニアに必要なのは偶然ではなく、仮説と検証。これが私の仕事観を決定づけました。
40代でフリーランスに、55歳で法人化へ。背景と狙いとは?
40歳ごろに個人事業主として独立しました。当時の大型案件ではフリーランスも多く、契約や支払いでトラブルも頻発していました。
一方で、フリーの技術者は腕のある“一匹狼”も多く、彼らを束ねる体制が必要でした。メーカー側も定年後の働き方を模索しており、責任ある窓口が求められたため、55歳で法人化。企業のお仕事でも個人事業主の人達も働きやすい商流を整備しました。
「志より合理性
」で始めた法人でしたが、結果的にフリーランスの働き方を支える受け皿となり、安心して継続できる仕組みを作ることができました。現在は15名ほどの仲間と連携し、メーカー系の案件を中心に継続受注しています。
チーム運営と、シニアが「またお願いしたい」と言われる理由
受注は主にメーカーOBの“継続案件”が中心です。レガシーシステムの保守や機能追加では、障害箇所の特定や修正方針を即断できる“勘どころ”が強み。若手が避けがちな保守業務でも、シニアは地道な作業をいとわず、依頼を断らないため、信頼を積み重ねやすい。
業務量にも波があるため、月130時間程度の基準稼働
で無理なく働ける体制も採用。体調や家庭の事情(介護など)にも柔軟に対応しています。また、社内ではキャリアコンサルタントと顧問契約を結び、介護・健康相談の体制
を整備。個人情報は保護され、安心して相談できる仕組みを作っています。
このように「安心して長く働ける環境」が、結果としてシニアエンジニアの方々が仕事に集中できることにつながっています。
レガシーシステムの刷新(モダナイゼーション)の現実と課題は?
メインフレーム特有の機能、たとえば階層型データベースや一体型ネットワーク をオープンシステムで再現するのは非常に難しい。単純変換では対応できず、再設計や再構築が必要になります。さらに、レガシーとオープンの両方に精通した技術者が極端に不足 していることも課題です。
現場で使われているCOBOL資産は、動いている限り“止められない”。棚卸しツールで資産を可視化しても、経営判断で「保守継続」となるケースが多いのも現実です。
一方で、シニア世代にはこうした変換・分析・移行検討に必要な現場知識
が豊富にあります。AIや自動変換ツールが進化しても、“なぜ動くか”“どこを変えてはいけないか”を説明できるのは人間の方が現時点では有利です。モダナイゼーションとは「技術刷新」でありながら「知識の継承」でもある——その橋渡し役こそシニアエンジニアの真価だと感じます。
60歳以降も働きたい方へ——シニアITエンジニアに求められるのは何でしょう?
「あなたは何が得意ですか?」を自分の言葉で説明できること が一番大切です。DB、ネットワーク、プロトコル、業務系アプリなど、どの分野であっても「ここは私に任せてください」と言える知識と経験を持つ人が求められます。
メーカーのマネージャーは面談時に技術的な質問をし、答え方でレベルを見抜きます。だからこそ、「説明力」こそシニアやベテランの武器。技術力は年齢ではなく、理解力と再現力で評価される時代です。
また、働き続けるには体調と家庭環境のバランスも重要です。130時間稼働など柔軟な労働設計と、キャリア相談体制
がある企業を選ぶことが、長く現役でいられる秘訣だと思います。
働くことは、社会との接点を保ち続けること。現場に立つ限り、新しい考えや技術と出会えるのがこの仕事の醍醐味です。年齢を重ねても、知見を活かしながら挑戦できる場がある
——それがこの業界の魅力です。
